就労移行支援とは?
就労移行支援とは、障害者総合支援法に基づく福祉サービスの一つです。
一般企業への就職を目指す障害のある方や難病の方を対象に、働くために必要なスキル習得や就職活動のサポートを提供します。
原則として18歳以上65歳未満の方が利用でき、利用期間は最長2年間と定められています。
事業所では、PCスキルやビジネスマナーの習得、職場実習、面接対策など、個別の状況に合わせたカリキュラムを受けることが可能です。
また、就職が決まった後も職場に定着できるよう、スタッフが企業との間に入って調整を行う「定着支援」も大きな特徴です。
一人ひとりの「働きたい」という気持ちを尊重し、自分に合った働き方を見つけるためのステップとして活用されています。
「就労移行支援は意味ない」と誤解される理由
SNSやヤフー知恵袋、インターネットで検索をすると「就労移行支援は意味がない」「通っても無駄」というネガティブな意見を目にすることがあります。
これから利用を考えている方にとっては、こうした言葉は非常に不安を感じさせるものでしょう。
しかし、こうした否定的な意見の多くは、制度の本質を誤解していたり、自分に合わない事業所を選んでしまったりしたことによる「ミスマッチ」から生じています。
なぜ「意味がない」「無駄」という誤解が生まれてしまうのか、その具体的な要因を深掘りして失敗しない選び方を解説していきます。
誤解① すぐに就職できない
そもそも前提として、就労移行支援はハローワークのように「すぐに求人や職場を紹介する場所」ではありません。
障害や難病をお持ちの方が少しずつ時間をかけて生活のリズムを整えたり、働くためのスキルを磨くことで一般就労を目指していくためのサポートを提供する場所なのです。
したがって、多くの利用者にとって最初の数ヶ月は「生活リズムの安定」や「自分の障害特性の理解」に費やされます。
「一刻も早く働いて給料を得たい」と考えている方にとっては、この準備期間がまどろっこしく感じられ、「通っても意味がない」という不満につながることがあります。
就労移行支援の利用者のうち、60%は1年半以下の利用期間となっています。
また、基本的に最大で2年(例外的な延長で+1年)という期限も設定されているので、いつまでも結論が出ないままダラダラ時間を過ごしてしまうということもありません。
| 就労移行支援の利用期間 | 就職者数 | 構成割合 |
|---|---|---|
| 6か月未満 | 294 | 13.0% |
| 6か月以上 1年未満 | 554 | 24.5% |
| 1年以上 1年6か月未満 | 539 | 23.9% |
| 1年6か月以上 2年未満 | 503 | 22.3% |
| 2年以上 | 369 | 16.3% |
※出典:厚生労働省「令和4年度 就労移行等実態調査 結果概要 3 就職者の就労移行支援事業所利用期間」
いきなり一般就労で就職して短期離職するよりも、一見遠回りに見えても少し時間をかけて訓練することで中長期の定着という観点で見るとベストなケースもあります。
つまり、就労移行支援でじっくり時間をかけることは、将来の「長く安定したキャリア」を築くための、最も確実な投資であると言えるのです。
誤解② 利用者の就職率が低い
令和3年度に就労移行支援事業所を退所した人の進路は以下の通りです。
「就職」「在宅雇用」「復職」が全体の61.8%を占めています。
就労継続支援A型事業所の就職率が4.9%、B型事業所が1.2%であることを考えると、就労支援サービスの中でかなり就職率が高いと言えます。
| 退所者の進路 | 人数 | 構成割合 |
|---|---|---|
| 就職 小計 | 2,259 | 61.8% |
| – 就職 | 2,088 | 57.2% |
| – 在宅雇用 | 76 | 2.1% |
| – 復職 | 95 | 2.6% |
| 就職以外 小計 | 1,394 | 38.1% |
| – 起業・自営業 | 34 | 0.9% |
| – 移行へ転所 | 99 | 2.7% |
| – A型へ転所 | 55 | 1.5% |
| – B型へ転所 | 229 | 6.3% |
| – その他障害福祉サービス | 119 | 3.3% |
| – 介護保険サービス | 1 | 0.0% |
| – 入院 | 57 | 1.6% |
| – 死亡 | 15 | 0.4% |
| – 転居 | 37 | 1.0% |
| – 在宅 | 418 | 11.4% |
| – その他 | 253 | 6.9% |
| – 不明 | 77 | 2.1% |
※出典:厚生労働省「令和4年度 就労移行等実態調査 結果概要 6 就労移行支援事業利用終了後の利用者の状況」
誤解③ 訓練内容が簡単すぎる
「毎日パソコンを打っているだけ」「折り紙や軽作業ばかりで、実社会で役に立たない」といった不満を持つ方もいらっしゃいます。
特にすでに一般企業での勤務経験が豊富な方や、高いITスキルを持っている方にとって、基礎的な訓練は退屈に感じられるかもしれません。
しかし、こうした基礎訓練には、本人の「作業の正確性」や「疲労の蓄積度合い」を客観的に評価するという重要な目的があります。
仕事において高度なスキルを要求される場面は実はそれほど多くありません。
それよりもはるかに重要なのは「決まった日の」「決まった時間に来て終業時間まで」「集中して丁寧に仕事する」という基本的なことです。
もし簡単すぎだと感じるなら、それはあなたの能力がすでに高いという証拠ですので就職に向けた準備が着々とできているという風にポジティブに捉えましょう。
もちろん、特殊なスキルを着けることを目的としているのに関係ない簡単なことしかさせてもらえないというなら話は別です。
最近では、プログラミングやデザイン、データサイエンスを学べる高度な事業所も増えていますので、自分に合った事業所を選ぶのが良いでしょう。
誤解④ 障害者雇用枠でしか就職できない
就労移行支援は、障害特性に応じた配慮を受けながら働く「障害者雇用」へのルートをメインに支援しています。
「障害を隠して一般枠で働きたい」という強い希望がある方にとって、障害者雇用を勧められることは不本意に感じられるかもしれません。
どうしても一般枠で働きたいという場合は、そういった支援に強い事業所を選びましょう。
もし漠然としたイメージで障害者雇用を避けているのであれば、一度よく調べてみることをおススメします。
障害者雇用の平均賃金は235,000円(令和5年度調査)
※出典:厚生労働省「令和5年度障害者雇用実態調査の結果を公表します (5)賃金」身体障害者の平均賃金
収入面を気にするのであれば、自分の希望する働き方・労働時間・職種の実際の求人を見てみましょう。
もし不足する場合は、生活保護や障害年金など公的支援を組み合わせることで安定した収入を確保することは可能です。
また、障害者雇用枠で就職した人のほうが、一般枠で就職した障害のある方よりも定着率が圧倒的に高いことが分かっています。
求人種類別の就職から一年後の定着率
・障害者求人:79.5%
・一般求人(開示):52.8%
※出典:厚生労働省「事務局説明資料 障害者の定着状況について(求人種類別・障害種別) 」身体障害者の数値をもとに作成
障害者雇用は、決して「妥協」ではありません。
自分の特性を企業に理解してもらった上で、無理なく能力を発揮できる環境を手に入れるための「戦略的な選択」です。
事業所選びでミスマッチが生まれてしまう理由
これまで説明したように、「意味がない」「無駄」という誤解は就労移行支援への間違ったイメージによって生まれることが分かったと思います。
しかし、就労移行支援事業所への通所を意味ないものにしてしまう大きな原因はもう一つあります。
それは「自分に合わない事業所を選んでしまうこと(ミスマッチ)」です。
ここからは、事業所選びで失敗してしまう理由やミスマッチが生まれる原因について解説します。
訓練内容が自分の希望する働き方とズレている
自分が目指している職種と、事業所が提供しているサポート内容が一致していない場合、通う意味を見出せなくなってしまいます。
例えば、将来はプログラマーになりたいのに、一日中封入作業の訓練をさせられては、モチベーションが下がるのは当然です。
就労移行支援事業所には、それぞれ「得意分野」があります。
事務職に強いところ、軽作業や製造に強いところ、クリエイティブ職に特化したところなど、その特色は様々です。
自分のキャリアプランと事業所の強みを合致させることができれば、訓練の時間は非常に価値のあるものへと変わります。
「どこでも同じ」と思わず、自分のやりたい仕事に直結する訓練がある場所を徹底的に探し、見学や体験をしてから選びましょう。
事業所の特色と自分の障害特性が合っていない
障害には様々な特性があり、必要な配慮も人それぞれ異なります。
発達障害(ASD・ADHD)の方への支援が得意な事業所もあれば、精神疾患(うつ病・適応障害など)の方へのメンタルケアに長けた事業所もあります。
自分の障害について知識が乏しいスタッフばかりの環境では、適切なアドバイスを受けることができません。
その結果、「分かってもらえない」「相談しても無駄だ」という感情が芽生え、意味がないと感じてしまいます。
反対に、専門的なサポートを受けられる環境に身を置くことができれば、自分自身の強みを活かした働き方が見つかりやすくなります。
自分の障害特性に合った就労移行支援事業所を検索できるサイトもありますので、ぜひ利用してみてください。
支援員やスタッフとのコミュニケーションが上手くいかない
どれほど優れた訓練やサポートがあっても、担当する支援員やスタッフとの相性が悪ければ、通所は苦痛なものになります。
「高圧的な態度をとられた」「話を親身に聴いてくれない」といった人間関係のトラブルは、利用を断念する大きな理由になります。
これは福祉サービス全般に言える課題ですが、支援員も人間である以上、どうしても相性の良し悪しは発生します。
見学や体験を通じて事業所やスタッフとの相性を確かめてから通所すると失敗を減らすことができるでしょう。
また、多くの事業所では担当者の変更を申し出ることが可能です。
どうしても合わない場合は、別の事業所に移ることも制度上認められています。
一人のスタッフとの関係だけで「就労移行支援全体が意味ない」と決めてしまうのは、非常にもったいないことですので、慎重に選ぶようにしましょう。
知恵袋でもよくある質問
就労移行支援の利用を検討する際、多くの方が抱く共通の疑問や不安があります。
Yahoo!知恵袋などのQ&Aサイトでも頻繁に見かける質問に対し、専門的な視点から回答をまとめました。
これらを知ることで、利用へのハードルが少しでも下がることを願っています。
就労移行支援のデメリットは?
利用者にとって最大の懸念点は、原則として「利用期間中に給料が出ない」ことです。
就労継続支援(A型・B型)とは異なり、就労移行支援は「訓練」の場であるため、労働の対価としての工賃は発生しません。
そのため、貯金を切り崩したり、家族のサポートを受けたり、障害年金や生活保護などの公的扶助を活用したりしながら通う必要があります。
しかし、こうした「目先の収入がない」というデメリットを補って余りあるメリットが就労移行支援にはあります。
それは、先ほども説明したように「高い就職率」「就職後の給与水準」「高い定着率」です。
独学や自力での就職活動で無理な働き方を選び、すぐに退職して無収入になるリスクを考えれば、自分に合った訓練内容を経て安定した職に就くことの経済的価値は非常に高いと言えます。
通所し始めて2ヶ月目。単純作業ばかりで意味があるのか不安です。
利用開始から数ヶ月の間は、多くの事業所で基礎的な評価期間として単純作業が設定されます。
これは意味のない作業をさせているのではなく、あなたの「強み」と「課題」を可視化するための大切なプロセスです。
例えば、単純な仕分け作業を通じて、「どのくらいの時間集中が続くのか」「ミスをしたときにどう対処するか」「指示を正しく理解できているか」をスタッフは見ています。
今の段階で不安を感じるなら、遠慮せずに支援員に「この作業にはどのような意図があるのか」「いつ頃から次のステップへ進めるのか」を聞いてみましょう。
意図を理解することで、単なる作業が「自分の特性を知るためのデータ収集」という前向きな意味に変わるはずです。
また、就職を目指すなら就労移行支援に通ってないと圧倒的に不利になってしまいます。
就労移行支援に通うということは、体力や健康状態に問題がないことの客観的な証明になり、企業が採用可否を決める上で重要な判断材料になります。
なので通ってるだけで既に就職に向けた大きなメリットを享受していると考えましょう。
就労移行支援が使えない人の特徴は?
就労移行支援は、全ての人にとって万能なサービスというわけではありません。
まず、体調が著しく不安定で週に数日の通所すら困難な方は、まだ利用のタイミングではないかもしれません。
この場合は、無理をして就労を目指すよりも、まずは医療機関での治療や、デイケア、就労継続支援B型などで体力を回復させることを優先すべきです。
また、「自分のやり方に固執し、他人のアドバイスを一切聞き入れたくない」という方も、支援の効果を得にくい傾向があります。
就労移行支援は、支援員やスタッフと相談の上で個別支援計画を定めて共同作業で就職を目指す場所だからです。
さらに、すでに高い専門スキルを持っており、配慮の必要もなく、自力で転職エージェントなどを活用して内定を得られる実力があるなら、わざわざこのサービスを使う必要はないでしょう。
しかし、「働きたい気持ちはあるけれど、どう動けばいいか分からない」「過去に就職で失敗して自信をなくしている」という方にとっては、これ以上ない強力なサポーターになります。
自分の現在の状態を見極め、適切なタイミングで利用を開始することが成功の鍵です。
どうやって事業所を選ぶのが正解ですか?
自分に合った事業所を選ぶことは、就職を成功させるための最も重要なステップです。
以下のチェックリストを参考に、複数の事業所を比較検討してください。
| チェック項目 | チェックする内容 |
|---|---|
| 就職実績 | ・過去3-4年間に何人が就職したか ・どのような職種に就いたか |
| 定着率 | ・就職した人が半年後、1年後も継続して働けているか(80%以上が目安) |
| 訓練内容 | ・自分のレベルに合っているか ・自分のやりたい職種に役立つ訓練内容か |
| スタッフの質 | ・自分の障害特性に寄り添ったサポートをしてくれるか ・質問に対して誠実、かつ専門的な知見を持って答えてくれるか |
| 通所環境 | ・自宅から無理なく通えるか ・事業所内の騒音や照明は気にならないか ・他の利用者と上手くやっていけそうか |
| 体験利用 | ・体験利用できるか ・実際に3日間〜1週間ほど通ってみて、居心地が悪くないか |
特に重要なのは「体験利用」です。
パンフレットやウェブサイトの情報だけでは、実際の雰囲気や支援員の質は分かりません。
複数の事業所で体験を行い、「ここなら自分の悩みを相談できそうだ」「ここの訓練内容なら成長できそうだ」と直感的に感じられる場所を選んでください。
多少時間をかけてでも、妥協せずに「自分にとっての正解」を探し抜くことが後悔しないための唯一の方法です。
失敗しない就労移行支援事業所選びをするために
ここまで「就労移行支援事業所は意味ない」「無駄」と言われる理由と、その誤解について解説してきましたが、いかがでしたでしょうか。
就労移行支援は、正しく活用し、自分に合った事業所を選ぶことができれば、あなたの人生を好転させる強力な武器になります。
「意味がない」という言葉は、自分に合わない環境を選んでしまった人の一部の声に過ぎません。
あなたにとって、就労移行支援事業所が自分らしく働くための最高の再スタートの場になる可能性は十分にあります。
失敗しないための最も重要なポイントは、一つの事業所だけで決めず、複数の選択肢を比較することです。
それぞれの事業所には、ITに強い、事務職に強い、あるいはメンタルケアに長けているといった独自の特色があります。
まずは自分の希望や特性を整理し、それに合致する事業所をいくつかピックアップしてみましょう。
そして、実際に足を運んで見学や体験利用をすることで、スタッフとの相性や通いやすさを肌で感じてみてください。
国が提供するこの手厚い制度を賢く利用して、経済的にも精神的にも自立した未来を手に入れましょう。
納得のいく事業所選びができるよう、まずは以下のサイトなどを活用して、身近な場所にある事業所を探すことから始めてみましょう。


